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合唱指揮者が語る曲づくりの秘密
=3.千人をもっと楽しむために=
O:どうすれば合唱団員はこの難曲を楽しめるようになれると思いますか?
G:半年以上の練習はひたすら修行で、オーケストラと一緒になる最後の1週間だけが楽しみです。歌って楽しくなければやらないと言っていると、それだけではこの作品は歌えません。音程をとること、言葉をつけることをきちんとやって、そして最後になって全体を理解することができれば楽しくなるでしょう。『第九』みたいに毎年とはいかないけれど、『千人』も経験が必要でしょう。
O:お客様に『千人』のどういうところを聴いてほしいですか?『千人』を初めて聴く人にはすごい迫力だな、というところから始まりますが、迫力だけではないと思うのですが。
G:第一部では最初とグローリアを柱としてバランス良くできている作品です。マーラーはうまく作っているので、ある程度コンサート経験のある人は面白く聴けると思います。先ほども言った通りバランスが大切で、お客様を満足させようと迫力だけで勝負するとピアニッシモのところも大きく演奏してしまいます。バランスを考えないと最後に収拾つかなくなってしまいます。私はこの作品はもっと緻密に作ってあると思います。
『第九』もバッハの『マタイ受難曲』もモーツァルトの『レクイエム』も皆が最初から全体を理解しているわけではありません。家族や友達が歌っているので初めて聴きにいらした方も、何回か演奏会に足を運んでいただくうちに、今日のソリストよかったね、2楽章は活発でよかったね、と演奏会ごとに変わっていただくことによって演奏者も成長するのです。
O:そういうことを考えると合唱指揮者にとってこの曲の面白いところは何でしょう?
G:本番の指揮者との分業の中で合唱指揮者に与えられる割合が多いということですね。そういう面では『千人』に比べられる曲はあまりありません。
O:一方で『千人』がマーラーの作品の中で人気がいまひとつなのは実演に接する機会がないということも原因なのでしょうね。
G: 残念ながら世界的にはこれを効果的に演奏できる会場やリハーサル会場がなかなかありません。大きなホールなら舞台を作ることができますが、それを作ってリハーサルをするためには3日間必要になり、それは財政的に無理があります。しかし、今回は3000円、4000円のチケットを売れば東京芸術劇場で『千人』の演奏会を開催することが不可能ではないということを証明しました。ホールが会場費を安く提供してくれたりすればもっと楽にでき、何度も演奏され、聴く人も増えます。いろいろな地域にあるホールが予算をとって様々な企画を立ててもらいたいですね。今回のように助成金もなく自分たちだけで『千人』を演奏するというのは、これはすごいことです。それならうちもやろうというオケもあるかもしれない。たとえば私は以前、日本国中北から南まで『第九』の合唱指導に呼ばれましたが、今はそれぞれの地域に経験を持った指導者が生まれています。『千人』についてもレベルが上がってそういうふうになればと思います。
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