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合唱指揮者が語る曲づくりの秘密=2.千人の難所=
O:この曲は難しいところがあちこちにあるのですが、その中で特に気をつけている部分はどこになりますか?
G:最後の神秘のコーラスへとつながっていく前のところです。まず男声だけではじまり女声が続いて、間奏があって神秘のコーラスになっていく。その男声合唱の部分から神秘のコーラスが始まっているのです。
O:練習の中では部分的に練習するケースが多くてわかりにくいところですが。
G:全体の流れをつかむのを練習でやりたいけれど、それをするためにはオケの部分を弾いてくれるピアニストの負担が大変大きい。やはりオケ合わせで集中するしかありません。演奏者が一緒になったときに短い時間の中でどこまでもっていくかが決め手です。もっと言うと今回を1回目として近い将来もう一回取り組んでいくことで、どのように完成へと向かっていくかということもあります。合唱団の中にこの曲を歌った経験がある人が多くいることで雰囲気を作ることでしょう。
O:合唱団から見ると難しそうなところはフーガであったり、神秘のコーラスの部分と思いがちですが、その流れなのですね。
G:神秘のコーラスに向かう流れが一番難しいですね。神秘のコーラスまでどう持っていくかが指揮者の腕でしょうね。人間の魂を天空すれすれまで持って行って神秘のコーラスにはいり、最後にマリアと人間の魂が再会する。
O:そこがこの曲の、またゲーテのファウストの本質かもしれませんね。テクニック的には最高度のものを要求されていますが。
G:また第1部では伝統的なスタイルでラテン語に即した歌の作り方、言葉と音楽の融合が大切です。それと最後のグローリアのように現代的なエネルギー。マーラーの作品は全世界に呼び掛けるミサになっていることを理解しなければなりません。その点トーマス教会の信者のために作曲したバッハや、ヘンデルなどとは違います。
O:アマチュアには大変な要求ですがどうやって解決していけばいいのでしょう。
G:オケもそうですが、個人個人の見せ場、合唱もここのパートが聞かせどころというのがありますが、それをどう音楽的なバランスのなかでやるかということが難しいですね。合唱でいえばパート間のバランスが悪いというアマチュア合唱団の宿命があり、それをどうもっていくかです。あまりコントロールしすぎるとコントロールできないぐらい悪くなってしまう。音楽が面白くなくなってしまいます。生き生きしたものを保ちながらバランスよく作っていかなければなりません。例えばエキストラを入れて男声が安定してくると女声も変化し、女声の変化を聴いて男声も良くなる。オケもそうでしょうね。お互いにやりとりする。そのためにもそれぞれがきちんとできるようにしておき、オケ合わせの時に合唱指揮者としてどうアドバイスできるかが大切ですね。
O:ソリストについてはいかがでしょう?
G:この曲の8人のソリストはトップ・アーチストでないと務まりません。しかしこの曲でふつう陥りやすいことは、オーケストラが大きいから大きい声を出してしまうということです。一人が大きい声で歌うと他の人たちも自分の声が聴こえないといけないと頑張ってしまう。そうすると全体がおかしくなってしまう。ただしソリストを含めた全体のコントロールは指揮者の役目です。今回はこれまでやってきた中でこの人という人を選んでいますので相当いいと思います。
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