ホーム - 合唱指揮者が語る曲づくりの秘密(千人インタビュー)



 ・〜・〜 目 次 〜・〜・
 はじめに
1.『千人』の合唱練習
2.『千人』の難所
3.『千人』をもっと楽しむために
4.今回の『千人』に対する思い
 <千人解説>
5.ゲーテ『ファウスト』の宇宙観の音楽化〜作曲の経緯
6.交響曲第8番の構成
7.ファウストの救済
8.マーラー畢生の傑作






ゲーテ『ファウスト』の宇宙観の音楽化=5.作曲の経緯=
       岡田利英
(認定NPO法人おんがくの共同作業場理事)

 マーラーは1906年8月に指揮者メンゲルベルクに宛てた手紙で「ちょうど(交響曲)第8番が完成したところです」という報告のあと、「想像してみたまえ、宇宙全体が鳴り響き始めるのを。それはもはや人間の声ではなく、惑星と太陽が運行する音なのです」と記しています。ウィーン宮廷歌劇場の芸術監督として多忙を極めていた彼は、毎年オペラがシーズンオフとなる夏の時期に別荘で作曲に専念することにしていて、この年も6月に南オーストリアのマイアーニヒの山荘に到着するとすぐに作曲にとりかかります。妻のアルマへの手紙では、作曲のための小屋に足を踏み入れたとたんにこの曲の冒頭の「来たれ、創造主たる聖霊よ」という一節がマーラーをとらえ、あとは8週間で一気にこの曲を完成させたと言っています。多少の誇張はあるにせよ、前後の状況からこの大曲を8週間でほぼ完成させたというのは間違いないことで、この時のマーラーの創作と作曲技法が充実していたことがうかがえます。オーケストレーションまで含めた最終的な完成は翌年となりますが、最初からマーラーの頭の中ではこの曲が響いていたのでしょう。
 この交響曲第8番は規模の大きさでそれまでの交響曲に類を見ないもので、オーケストラは巨大な編成であるだけでなく、オルガンやハーモニウム、通常オーケストラではあまり使われないマンドリンなど様々な楽器が使われ、独特の効果を生み出しています。こうした器楽に加えて、声楽も2群の混声合唱と児童合唱、8人の独唱者が要求されています。それまで交響曲に合唱がつくのは、ベートーヴェンの有名な第九交響曲やマーラー自身の交響曲第2番『復活』のように終曲や一部に登場するだけでしたが、この曲の場合は最初から最後まで合唱、独唱が歌い続けます。そこでは人間の声は楽器と対等に扱われながら、一体となって共鳴して宇宙的とも言える響きを創りだしているのです。「第8番では人間の声もまた楽器の一部である。第一楽章は形式的には基本的に交響曲でありながら完全な歌である」とマーラーは言っています。ではマーラーが宇宙が鳴り響く様を音楽にしたというのは、冒頭部分をはじめとした圧倒的な大音響について語っているかのように受け止められがちですが、本当にそうなのでしょうか。

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