■抵抗、愛そして平和
プーランク「スターバト・マーテル」「グローリア」
武満徹「死んだ男の残したものは」
指 揮:ジェフリー・リンク、郡司博
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
ソプラノ:小渡恵利子
トルトーナ国際音楽コンクール第2位
合唱:新星合唱団、東京オラトリオ研究会
≪抵抗、愛、そして平和≫
フランシス・プーランク 1899-1963年 64歳没
武満 徹 1930-1996年 66歳没
〜ともに第二次世界大戦及びその戦後の体現者〜
私の合唱指揮生活35周年の意味は、全くないにしても、この機会に自分のわがままを合唱団員にきいてもらい、これらの作品を取り上げることができたのは、合唱指揮者冥利につきます。
武満徹との出会いは 故山田一雄がまだ元気に活躍していた頃、新宿厚生年金ホールの楽屋で山田先生に紹介された時である。そのときのことは鮮明に私の記憶に残っている。武満徹の代表作といえばあのストラヴィンスキーが絶賛した『ノヴェンバーステップス』であることは周知の事実だが、合唱に身を預けたものにとっては、谷川俊太郎の詩につけられた『死んだ男の残したものは』を私は第一にあげる。
このメロディの素朴な大衆性と、合唱曲としてつくられた音楽の現代性は、林光の『原爆小景(水をください)』や、間宮芳生の『こどものためのコンポジション』に決して劣らない程の普遍性を持っている。
戦争には勝利者も敗者もなく、ただ愛する者を失った者の苦しみのみ残るだけなのだ。
プーランクは70年代後半に友人から勧められて、テープが擦り切れるほど聴いた作品だ。彼はそれまでの音、いやまた音楽そのもののあり方をも問い直す試行錯誤を繰り返し、これらの作品を書き上げている。これらを歌うものにとってそれは至難の技ともいえるし、これまでの合唱人生からの新たなるアプローチとも言える。
この2人の作曲家に共通したものは、盲目的な愛や平和への祈りではなく、抵抗と、戦いの中から勝ち取られた確かな平和と愛への想いなのだと思う。
招聘する指揮者ジェフリー・リンクは現在活躍する中堅のアメリカ人指揮者で、すぐれた感性の持ち主である。音楽と現実を見つめる目は絶えず冷静であり、そして鍛えぬかれた聴覚をもっている。あの一昨年9月11日の同時多発テロのあと、アメリカ中が報復に狂気していたとき、彼は沈着冷静にその無謀さを憂えていた。
一昨日のニュースは米軍のイラク攻撃に反対するローマ法王の声明を報じている。ジェフリー・リンクは、この報道や、アメリカ国内や世界中のイラク攻撃を憂える声をどのように聞いているだろうか。このコンサートが愛と平和への呼びかけにつながればと思う。
今回のコンサートは2つの合唱団の大いなる共同の作業として、何としても成功することを心から願っている。
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